これは批評ではありません。

布教と悪口とメモ/えんためはなんでもマル

青春オタク哲学に陥落せよ『ぼんとリンちゃん』

冒頭から、あっもう好きじゃんてなった本作。

こういうのを見たくて邦画を見ているのだなあと思います。

2014年『ぼんとリンちゃん』

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なかなかポップでアイタタしいポスターですが映画の内容はひたすらに丁寧です。

物語は幼なじみのぼん(左:佐倉絵麻/腐女子)とリンちゃん(右:高杉真宙/アニオタ)が上京して彼氏にDVを受けている親友の『肉便器ちゃん』を救い出そうと東京に出る、という説明(手書き)から始まります。二人はネットゲームで知り合ったベビちゃんと共になんとか『肉便器ちゃん』と再会しますが、風俗嬢として働く彼女との口論の末結局連れ戻すことが叶わないまま地元に帰ります。映像はカメラを固定しさながら二人の旅路を覗いているような感覚。

あらすじを書き出すと単語が強いのですが、実際はそれほどでもなので安心してください。

 

さてさて、基本的にはオタクの会話劇なんだなー。癖の強い言い回しや独特のスラングが多用された会話、見た目こそまともだがやや空気の読めない二人と見た目はキモオタおじさん全開だが中身はまともそうなベビちゃんとのやりとりの掴みは抜群で、店内で流れるボカロBGMが一層その作品の振る舞いを提示してみせています。ていうかコスプレカフェからとらのあなっていう移動経路からして、ああって感じ。

でも装飾まみれのぼんとリンちゃんの言葉は意外に的を得ていてまともだったり、逆に案外(いやある意味想定通り?)ベビちゃんがヤバかったりでなんだかんだ憎めない関係がだらっと続いていくんですよね。そのへんの空気が心地良いい。

そうです、この作品は終始雰囲気がいい。

雰囲気がいいといっても、それはいわゆる(?)雰囲気映画だという意味合いではなくて.、監督が登場人物に向ける視線がとても温かいのです。例えば「性」という壁をおいて近づききれないぼんとリンちゃん、深夜にぼんに夜這いをかけるも逆に尻に敷かれてしまう情けないベビちゃん、ぼんとの友情に胸を揺らしつつ都会を選ぶと宣言するみゆちゃん(『肉便器ちゃん』)。家電売り場でお菓子を食べ散らかすJK組も妙におかしく愛らしいです。決して強くはなく、曖昧で、正しくもない彼らの正義をひとつひとつ取り上げてほこりを払ってみせる、そういう手つきに魅了されるのかなと思います。

そしてこだわって積み上げてきたぼんという少女像を、親友みゆちゃんと対峙させるクライマックスは役者ふたりの好演もあいまって素晴らしいですね。この作品の青春映画っぷりを堪能できます。

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監督の小林啓一さんは今年の秋に世紀末さん原作の新作『殺さない彼と死なない彼女』を控えているようで、早くも公開がめちゃめちゃ楽しみです~。

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最後に、私が小林啓一監督に惚れ込んだ腰砕けの最高のラストの話をしたいな。地元に帰ったボンとリンちゃん。ボンはリンちゃんとゲームをしながらも、親友を連れ戻せなかったやるせなさを引きずり一人上の空で考えを巡らせ続ける。

 

ぼん「そうだよ、あるある!みんなが満足する答えだってきっとあるはず!絶対あるよ!何かが絶対あるはず!そうすればみゆちゃんだって......。苦悶にだってアナルは必ずある」

リン「出口は必ずあるか!さすが108代の―」

ぼん「違うよ。アナルは出口じゃないよ、入口だよ」

 

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うーーん、秀逸 

演劇ユニット ロボットパンケーキZ『ワールドワイドな世界の終わりで、それでも、なお、「回転」し「加速」し続けている、僕らのラブリーパンクBPM152。』

ついにロボパン。

相変わらず緒方さんのデザインはとっても可愛いです。

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ただ本編は、ちょっとうーん、ダメでした。自分でもびっくりしたけど、中盤を前に心身に不調をきたしてしまって、途中からは集中を切ってほとんど眺めるだけのように舞台を観てしまいました。真ん中の前の方にいたから、役者さんにはすごく失礼なことをしたと思います。

 

それで、どうしてそうなったかなーってのが今回の話。

 

まず私は開演前に役者さんが舞台上にいる演出がとても苦手です。それでも初めは役者さん同士が雑談したりストレッチをしたりしているだけで、こちらへの干渉がなかったので比較的大丈夫でした。ただ10分前、5分前と開演が近づくにつれて、徐々にクラスメイトを演出する『他愛のない』振る舞いが、自分にはどうしようもなく嘘っぽく見えてしまって(入学直後に同じ学校出身の友達ととりあえずで飯を食べてるような)、これから嘘をホントにする芝居が始まるはずなのに、その場に蔓延した虚構に気持ちが悪くなってしまいました。これは自分の性格に依る部分も多くて、結果的に、演出が狙った効果とは外れた影響を受けてしまったのかなーと。

 

それから本作の肝である「全員10歳」という設定。断っておくと、自分は中盤以降の物語を追えていないのであの少年少女が実際の小学生なのか、幻想の小学生なのか、象徴の小学生なのか、あるいは小学生たちを起点とした伏線が回収されたのかどうかといった点を全く理解できていません。その上で、序盤までの物語と印象だけでもうどうしても言わせてもらうと、10歳舐めてんのか、と思いました。

 

(~しばらく主観的十才論~)

10歳は特別な年齢です。なんたって十代の入口、クラブ活動も始まり高学年の仲間入りだーという程度の変化には収まらない多感な移ろいを見せる季節です。ただ「すき」「きらい」「つよい」「よわい」しかなかった教室の中に急に人間的な表裏、打算・嫉妬・媚びといった対人で生じる複雑な感情の機微が渦を巻き始めるのは明確にこの時期でした。今でもはっきりと覚えています。とにかく毎日一番自分が傷つかないポジションをとるため足りない頭を必死に回していました。また今まさにその年齢に当たる妹を見ていてもそうです。相も変わらぬ暴走的無邪気さを発揮する一方で、みんなと同じ中学に行くべきか真剣に悩み、肌荒れを気にし、おかんが運動会に持ってきた弁当にとりあえずダサいといちゃもんをつけてみる、そんな年齢です。

(~十才論終わり~)

 

私にはロボパンの10歳児たちはどう見たって幼稚園そこそこでした(これは演出面で)。とにかく無邪気に喋る、んで声を張る。みんな同じだからくらくらします。そしてその10歳児たちをよく見ていると、役者レベルでも、10歳ラインが大きく異なっていました。キャラクターを差し引いても振れ幅が年長さんから大卒くらいまであってまたくらくら。

 だからどうして10歳なのかが謎で、もしかしたら作中で明示されてたのかもしれないのですけど。恋と誕生。そのへんもキーワードだったから、そういうセクシュアルな意識を持ち始める年齢という意味で10歳だったのかな。こういうのはまた別の人に相談してみたいところです。

 

一度パーツにとらわれてしまうと、後はもうドミノ式で、狙った笑いに乗れなくなってしまったり、外しをいやらしく感じてしまったりして良くないサイクルにハマって、気が付いたら舞台が遠くなっていました。宣伝美術も舞台美術も衣装も、緒方さんの舞台は断然かわいくて、でもかわいいと暴力なんてやっぱりベタな掛け算だから、コマンドがその2つしか見れなかったのはあまりに惜しい...もっといろんなフレーバーが欲しい......

 

役者さんで言えば、山口さんが圧倒的で、でも高松さんもかなりよかったです。山口さんは俳優さんらしい佇まいで、強引にでも作品を引き締める効果を担っていたし、高松さんが全役者の中で一番10歳という年齢に相応しく見えました。キリハラさん、ウノ・サノもよかった気がするんですが、不調にあっては、いかんせんきんきんに張った声がしんどく正当に受け入れられなかったのが悔しいです。

 

あと照明は素晴らしかったですね。広く平たい舞台に惜しみなく降り注ぐ光が終始美しくて感動しました。お気に入りはダンスシーンかな?文脈はまるでわからなかったけど、それでも魅入ってしまいました。めいさんすごい。

 

心身に不調が及んだなんていうのは良くも悪くもですが、それだけロボパンさんの舞台にエネルギーがあったのは確かでした。下手な芝居じゃそんなことには絶対陥らないし。ただ今回は、むしろ脚本に、演出に、そして役者に宿るそれぞれのエネルギーが分散的に機能してしまったように感じて、その不協和音に酔ってしまったのだろうというのが結論です。

 

これは完全に余談ですが、ロボパン然り、モニカ然り、星の降る森然り、大橋出身の方の舞台ってやっぱり文脈よりは手法重視なんですよね。そりゃ演劇だから手法には懲りますよってのとはまた別で。全部世界観は違ったけど根底のソウルが近い感じがします。なんかおもしろいなー。長くなっちゃったけど、おわり。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

いのちの洗濯劇場『×(ペケ)な人々』

チラシがとってもとっても可愛いのですよ!!!

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ものすごくタイミングもよかったんだと思いました。私にとって。

刺さった、という言葉とはまた違うんですけど、会場に入った瞬間から家に帰るその時まで幸せが持続していくお芝居でした。

 

お話。舞台は映像研究会の部室。見た目”いかにも”な阿×(あぺけ)が部室でうんうん脚本書いているところに、入部希望の新入生・星野ちゃんがやってくる。彼女と話してから阿×の様子がおかしくて、部員たちはその原因について頭を悩ませる中で、次第に阿×の秘密を知ってお互いに衝突してしまう、みたいな感じ、です。

 

思ったこと。

まず舞台装置がよかったです。脚本の升さんが大学時代を過ごした演劇部の部室がモデルということで、壁に貼られたチラシや折りたたみ式のテーブル(公民館とかでみるやつ)、雑多に置かれた漫画のチョイスから妙に家庭的な電気ポットとお洒落なティーセットが混在している感じなんかまで、冴えない文化系サークルの出で立ちが絶妙に再現されていました。雑多な雰囲気の中に、めちゃめちゃクオリティの(これまた絶妙に)高い自主制作映画のポスターがあったり、こっそり『人魚は笑う』のパロディポスターが潜んでいる遊び心も抜群!笑 そして何より胸を打たれたのは冷房です。おそらく常設されている褪せた冷房機が(反対側にもあったし)、完璧に部室のセット仕立てに利用されていて感動しました。冷泉荘で観るお芝居はハコを上手く使ってるな、と思う作品に当たることが多いのですが、その他デハケなども含めて今回が一番でした。

それから役者さん。キャスティングに隙がなくて、本当にどの方も役にハマっていました(そして上手い)。中でもとりわけ好きだったのが、先崎先輩です。あーいるよなって、感じの。およそ悪意というものがなくて、誰にでも優しくて、でも人と関わることに不器用で、多分小中高教室の隅にいて部室でだけ羽を伸ばしていたような空気。入ってきた瞬間から、阿×に思いの丈をぶつけて部屋を飛び出す瞬間まで、まったく目が離せませんでした。ちるさん(役者さん)の素の姿ががぜん気になります......!!

脚本はやっぱり上手くて、意外性はあまりないけれど、会話の引き算や展開の落としどころといったテクニックやセンスが効いていて、戯曲賞候補作はレベルが違うなと感じました。特に、一悶着のあと林田先輩が出て行き部屋に残された星野と阿×の会話が好きでした。(星「お邪魔でしたか」阿×「ああ、うん」みたいな。違うかも。あー)自分なんかは外しをやんなきゃ!と頭ではわかっていてもバチバチに嵌めた展開を広げてしまうので、反省するとともにこういう会話が書きたいと思いました。

 

それで、今回感じた”幸せ”ってどこから来たのかなーって考えると、やっぱりバランスのよさかなーという結論に至りました。こういうお芝居、と言うのは失礼かもしれないのですが、こういう脚本がしっかりして役者に粗がなく装置も音響も照明も美術も同じ方向を目指して正しく機能している現実を指向したタイプのお芝居は、意外とありません。観劇三昧とかを眺めていると似た雰囲気のものがむしろ多い気がするんですけど、私自身はあんまり見れてなくて、だからすごく嬉しくなったし終始安定した気持ちで対峙することができました。福岡で、こんなお芝居を定期的に観られたら、多少調子が悪い時も羽やすめのような気持ちで心から楽しめるだろうな、そんな多幸感がありました。最初の演出で、部室でそんなぐるぐる動きまわったら危なくない!?みたいなヒヤっとはしたんですけどね。笑

 

会場から早く逃げないと死んじゃう持病があるのでさっさと飛び出してしまい、戯曲を購入し損ねてしまったのはとっても後悔。思い出を心のレンジで温め続けようと思います。そういえば、星野ちゃんが白ニットと赤チェックスカートで登場した時のお前がA級戦犯感よかったな~。ちーん(レンジが仕上がる音)。

 

客ラスはまってます。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

 

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てめーらが100億倍可愛いわ『宇田川町で待っててよ。』

後期公演や引っ越しで慌ただしかった日々も落ち着き、ようやくU-NEXTのマイリストにぶち込んでた作品に手をつけることが出来ました。

 

『宇田川町で待っててよ。』

よかったです。性癖に刺さりまくる感じで。

上映時間65分ということもあり、とりあえず2週しました。

udagawa-movie.com

 

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あらすじは公式が良かったのでそちらから。

渋谷ハチ公前。百瀬が恋に落ちた女の子は、実は女装したクラスメイトの八代だった。落ちこむ反面、すでに心ときめいた百瀬は、家でも学校でも八代のことを考えてしまう。一方、八代はそんな百瀬の様子に戸惑いながらも、彼に渡された女子校の制服に袖を通す。

 

原作がBL漫画ですから当然男同士の恋愛を描いた作品なのですが、好きになる相手が女装したクラスメイトというのが本作の見所。単純なボーイズラブでは割り切れないような複雑で奇妙で真っ直ぐな二人の関係が何より魅力です。

 

女装男子・八代くんが意外に体躯がしっかりした感じなので、男性の似合わない女装が苦手な人や男同士のシーン自体が苦手な人にはあまりおすすめできません。逆に複雑な性指向にロマンを感じる人やそのへんにおおらかな人には良いんじゃないでしょうか。キスまでだし。

(私はむしろ似合わない女装にこそぐっとくる派なのでお宝映像でした)

 

以下感想、推しどころです。

 

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まず、モノローグがいい。

 

[骨張った肩で/男だと気づいた

 顔を見て/八代(クラスメイト)だと気づいた]

 

冒頭、渋谷の街で八代を見かけた瞬間の台詞。この間、空気感、流石(BL)です。(BL上がりの作家さんは絵と空気作りがとにかく上手いんですよ。)でもペットボトル落とす演出はちょっとわざとらしい気もしました。

 

んでざっくり言えば、八代は陽キャで百瀬は陰キャ。普段は決して交わることのない彼の、あの日のとても「言えない」姿に惹き付けられてしまった百瀬は、ど直球に彼にその想いをぶつけていきます。女子校の制服を贈ったり、脅したり、強引に唇を奪ったり、デートに誘い出したり。

このへんの百瀬がめちゃくちゃ怖いんですよ。笑

実際八代はおびえてて。教室でもずっとこっち見てるし、絡んでくるし。

 

でもだからこそ、表面には見えにくい彼らの気持ちの隅々にまで想像が行き渡るようで大変豊かな気持ちになります。

 

真っ直ぐな百瀬。クラスメイトの女装姿に図らずも「可愛い」と思ってしまって、ゲイなのか、それとも女装した八代が好きなのかなんてことも考えきれないまま、目の前の「可愛い」八代に少しでも近づきたくて、必死な百瀬。爆音で耳を閉ざし、世界から距離を置いてきた日々に、初めて自分から飛び出して彼を捕まえようとしている。百瀬。

「お前の100億倍可愛いわっ」は大好きなセリフです。

 

怖がりな矢代。俺は男で、彼女だっていて、友達にも人気があって、だから女装とか暇つぶしで、別に似合ってるとか思ってないし、キモいとかごついとか全部わかってるから、とか余裕ぶってみせる矢代。百瀬の好意を拒否し続ける言葉は、極めて常識的で、同時に女装に惹かれている自分を牽制するため矢代が自分自身に掛け続けてきた言葉でもある。矢代が似合わないワンピースを着て身体を震わせる。円周率。耐え忍ぶ全身から本音が漏れだしている、それがたまらなくいいんです。

 

矢代は百瀬の濁りのない言葉に幾度となくぐらつき、その度に現実の言葉で自分を正しい世界に引きとどめようとします。初めて部屋に招き入れたときもそうです。揺れ動く矢代の気持ちは百瀬には届きません。翻弄されるまま百瀬は焦り、必死になってやりすぎてしまい、ついに矢代を泣かせます。現実の上下関係を守ろうと懸命に戦ってきた矢代の牙城が崩れ去り感情がむき出しになるこの場面、好きです。そもそも男の人が弱ってるのが好きです。

 

そしてラストへと駆け抜けていく一連の。

 

矢代、かわいいよ、矢代。

私だっていつまでも言い続けるよ、矢代。

ここはもう見てほしいとしか言えません......

 

純粋な演技の巧拙なら、正直主演のお二方(黒羽麻璃央/横田龍儀)より八代の友達や百瀬の姉の方の方が上手かった印象でしたが、二人は真っ直ぐに役と向き合ってきたことが伝わってくる瑞々しい好演だったと思います。特に八代が、百瀬の気持ちを受け入れて以降の姿は、まさに恋する乙女そのものでした。この辺から格段に可愛くなる点も含めて素晴らしかったですね。

 

原作の漫画もかなり好みなテイストだったのでまたじっくり。

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最後に、映画ではカットされてしまった、百瀬が矢代を紹介するモノローグで今回は終わります。

 

[矢代は/クラスでいちばん/派手なグループにいて

その中でも/特別目立つ/わけでなく

そこそこに/勉強ができて

いつも/ひなたを/歩いている

 

意識してみると/矢代は/地味だけど

とてもていねいな顔立ちをしている] 

 

いいよね。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

砂漠の黒ネコ企画『Gogh Quartet』

初めて枝光駅で降りました。

枝光アイアンシアターデビューです。

劇場までの道中びっくり。すき屋しかねえもの。

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今回ひとつ「しまった」と思ったのは、割と直近で彗星マジックさんの『ポストグラフ』を見ていたことです。

postgraph.jimdofree.com

ポストグラフもまた画家・ゴッホを主題に据えた作品。いかにモチーフの捉え方が違えど、どうしても先入観なしに見ることができなかったのはとても残念でした。改めて舞台は前情報なしが一番純粋に楽しめるなと痛感します(東京旅行での『愛犬ポリーの死、そして家族の話』然り。超良かった)。

 

さてさて。「―全員、ゴッホ」という魅惑の触れ込みから観劇前の私が想像していたのは、ゴッホの人格が4つに分裂した、いわゆるインサイドヘッド的な構成だったのですがこれは大きく外れてました。

 

物語の軸はタイムスリップで、4人の役者はそれぞれ中年期/壮年期/青年期/幼年期の配置というのが正解。本作は南フランス・アルルに移り住んだばかりの壮年期のゴッホの元に、人生に絶望した中年期のゴッホが画家としての未来を諦めさせようと訪ねてくるところから始まります。彼らは己の退廃の根源を探るべくさらに過去へと遡り、青年期、そして幼年期の自分との邂逅を果たしますが、やがてどれだけかつての自分の痴態を恥じ悔いてもそれは未来の退廃の源では気づきます。過去と、未来と対峙しながらゴッホという芸術家の多層だが真っ直ぐな生き様を描き出す、そんな感じの作品でした.。

あってる...かな?

 

いーなーと思ったところ。

幼年期のゴッホを担う関さんが何かとツボでした。まず全然動かない。ずっと隅っこで座っている。そろそろかなーと思う。まだ動かない。それで緒方さん(青年期ゴッホ)が恋人との思い出を情感たっぷりに語り出すと同時に、ようやく舞台へ上がって、どうすんだと思っていたらあれよあれよとシャツを脱がされ上裸で絵画にするりと収まる。このあたりの関さんのすんとした佇まいが確かに色っぽくて、長身の俳優さんであるものの、中性的な魅力がありました。それから物語全体としても幼年期ゴッホの登場から一気に場面が鮮やかになったようでがぜん引き込んできます。大きな体躯に幼い心というギャップのある役どころでしたが、隙のある面白さと安定感があり、気づけば自然に目がいっていました。推せる。

それからゴッホという一人の人生の多面性を、時間軸で区切られた別の人格として切り取ってしまうという見せ方がよくて、特に場外からゴッホが参戦するくだりは非常に決まっているなと感じました。未来のゴッホが過去の自分を責めては遡り、責めては遡り。しかし『ゴッホ』という将来の成功モデルを提示されたときに、今まで外に向いていた攻撃の矢印がようやく内に深く突き刺さっていることを自覚する。ここの振れ幅の怖さが、私まで傷つけられたような感じで、ひりひりしました。演出が自らが登壇する演出があまり好みではないので、はじめは一瞬ヤだなと思ったのですが、本作の 宣伝コンセプトや意外性を考えると納得できたし、抜群に皮肉が効いていて結果的にとても好きな場面です。

 

 中盤にエッジの効いた面白さが炸裂する反面、ややスロースタートな印象はありました。原因は序盤の装置やプロジェクターを用いた演出が自分にハマらなかったこと、また全員がゴッホという事前の認識があったため脚本段階での突飛さが舞台で既視的に見えてしまったことかなと思います。加えて、先に見たポストグラフのゴッホ像が先行し、その前身(?)である中年期や壮年期のゴッホ人間性を受け入れるのに時間がかかってしまったという個人的な反省もあります。記憶消し飛ばしてもう一度みたらまた違った印象になりそうです。

 

私が今までに見たきーやんさんのお芝居とは少し毛色の違う印象の作品で、だからこそまた次は何をやるんだろう...と今から新作が楽しみな作品でもありました。それにしてもアンケートで心に残った役名を書かせる欄があったのは笑っちゃいましたねー。いや全員ゴッホやないかーい。大人の遊び心。

 

ポストグラフ、カルテットときてもっとゴッホについて史実(事実)を知りたくなってきました。あと『7人のシェイクスピア』とか、未読だけど、構成近いのかな。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

 

『のだめ』ハマってますなんて今更言えない

文体を模索しています。

初回はです・ます調で、2回目は言い切り調でそれぞれ書いてみました。福岡演劇の感想だと、検索流入がありえるので、生意気だと思われたくなくてつい大人しぶります。ですがその他については気分次第というか、作品次第というか、ちょっとまだまとまりきらないのでしばらくはフラフラすると思います。ご容赦ください。

 

では本題。

 

のだめカンタービレ』がめちゃめちゃ面白い!!!

 

数年前に上野樹里玉木宏主演のドラマが話題になってたので、たぶんもうみんな知ってると思うんですけど、テレビ離れが著しい自分はU-NEXTで見て今頃になってハマっています。新刊漫画セットを揃えたくてもAmazonからすでに姿を消しているような現状。

 

周囲も「今更?」って感じで完全にひとり熱量を持て余しちゃってるので、ここで書き散らかしたいと思います。

(今回はアニメ版に関してのお話がメインです)

 

www.fujitv.co.jp

 

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アニメ のだめカンタービレより

ざっくりお話しすると『のだめカンタービレ』は、努力の天才指揮者・千秋慎一と天性のピアニスト・野田恵(通称のだめ)が出会い、世界へ羽ばたく音楽家へと成長していく物語です。1期では桃ケ丘音楽大学、2・3期はフランス・パリへと舞台を移し、個性的な面々を巻き込みながら目まぐるしく変化する彼らの周囲の景色。対照的に、音楽を介し、付いて離れて一歩ずつ信頼を温めていく千秋とのだめの関係が本作の魅力の原点だと思います。

 

正直2期(巴里編)は1期と3期のつなぎ感が強く、榎戸さんどうしゃったんですか!?という感じではあったものの、3期(フィナーレ)、そして何より1期が素晴らしかったです。1期のOP/EDから本編へと切り替わるタイミングは絶妙で、まさに演出。別の方のブログで『桜蘭高校ホスト部と並ぶ』と評されるのも納得の巧みさでした。もちろん曲のほどよいぬるさが3シーズン中最も好みだったというのもあるかもしれません。どちらにせよ、アニメの月9を語ったノイタミナ初期にぴったりでした。

 

全体についてはこれくらいで、ここからは特に推せる場面をピックアップします!

 

好きな演奏シーン4選

のだめカンタービレは音楽(オーケストラ)を主軸にした作品。原作は漫画ですが映像版では実際に演奏が流れるという強味があります。クラシックに興味がない私もたちまちに引き込まれた魅惑を演奏シーンを激選しました。

ラプソディ・イン・ブルー(G.ガーシュウィン)

1期 Lesson10「魅せるということ」

脚本:横谷昌宏 演出:橋本敏 絵コンテ:福田道生 作画監督:加藤万由子

 

www.youtube.com

 

もう大好き。一番好きです。千秋が大学で任された落ちこぼれオーケストラ(Sオケ)がコンサートでエリートAオケを上回る演奏で大成功を収めた後の文化祭。仮装オケがやりたい!という意見によって、峰を中心にワイワイ楽しんで編成されたSオケ2度目のお披露目になります。有名な曲ですが、のだめではこれを大胆にピアニカアレンジ。それにより前オケでは参加できなかったピアノ科組・のだめもSオケと共演を果たすというのが見所ですね(ただし千秋とは共演できず)。

マングース(?)のコスプレをしたのだめのソロから始まるこの演奏。観客として見に来た千秋がコスプレを見て「のだめ...?」と不審がってから、演奏を耳にして「のだめだ...」と確信する場面が地味に萌えます。峰主導というだけあって、パフォーマンスに凝ったSオケの演奏は聞いて見て楽しめるお気に入りのシーンとなりました。

Sオケの演奏に刺激を受けた千秋がスランプを克服し、11話で奏でるラフマニノフも泣けるのでぜひ10・11話合わせて見たいところです。長くなっちゃった。笑

 

オーボエ協奏曲ハ長調(モーツアルト)

1期 Lesson18「覚醒」

脚本:土屋理敬 演出:高島大輔 絵コンテ:福田道生 作画監督:鷲田敏弥

 

コンサートを控えつつも、コンクールに挑むR☆Sの面々の中には意外な結果で終わるメンバーたちも多くいました。このオーボエ協奏曲でソロを務める黒木くんもそのひとりです。作中で武士と異名をもついぶし銀的オーボエ奏者の彼ですが、のだめに恋をし振られたことでコンクールでミスをし、実力を発揮することができませんでした。そんな黒木くんが完全復活するのがこの回です。

個人的にいいなと思っているのが、ここで描かれる黒木くんの性格。

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アニメ のだめカンタービレより

 

のだめに失恋した黒木くんは、うっかりリード(オーボエの吹き口、自作するようです)を水に浸しすぎてしまい万全な状態で臨めなかったために失敗してしまうのですが、ここが上手い。もし作者が私だったら、フラれたことで調子を崩す、なんてシナリオは100%演奏そのものでしくじったという展開にしちゃうと思います。自分のせいではなく道具の不備のせいというワンクッションを挟んだ上で、演奏中の彼のモノローグ。

「あのコンクールの悲惨な敗北の後でも、千秋くんやこのオケのみんなの僕への信頼は少しも変わらなかった。僕はその信頼に応えてみせる」

自分の失敗を重く受け止め、真っすぐな姿勢で向き合うその姿に全私が感動ですよ。このへんのバランス感覚は原作者・二ノ宮先生の手腕だなあと唸らされます。

 

しかしまさか彼がその後全シーズンに渡る活躍を見せるとは思いませんでした。好きな子なのでとっても嬉しいですけどね。松風雅也だしね!

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むの永遠のプリンスも松風雅也さん
 
③ピアノ協奏曲第1番ホ単調(ショパン)

3期 Lecon9

脚本:吉田玲子 演出・絵コンテ:鈴木洋平 作画監督:梶谷光春

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悩みに悩んだけど好きな”演奏シーン”だし、ということでこれです。

着実に実績を積み上げていく千秋に対し、なかなか前に進ませてもらえない自分に苛立ちを募らせていたのだめが、ついに悪魔シュトレーゼマンの手を取り鮮烈なデビューを飾ります。これは実質的に千秋とのだめの破綻であり、一種NTRの様相を呈すものです。客席で、淡々と曲とのだめについて語る千秋を見ていると、千秋とのだめの二人の交わりを描いてきたようなこの物語で、実際には彼らはむしろさまざまに交錯していることに気づかされます。

咲き乱れるのだめ。清々しくも残酷な二人の破綻は、様々な思い出を胸の内に去来させ後のクライマックスへと惹きつけてやみません。 

 

 ④もじゃもじゃ組曲(野田恵)

1期 Lesson17「無駄」

脚本:横谷昌宏 演出・絵コンテ:鈴木洋平 作画監督:加藤万由子、川田剛

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最後は異端児。

動画は該当話ではないんですけどねーなかったのでねー幸せの森をば。

もじゃもじゃ組曲は幼稚園の先生を目指してのだめが作っていた曲でした。コンクール嫌いののだめが、R☆Sオケでの千秋の活躍を見てようやく出場する気になった時に江藤先生(ハリセン)と交わした契約はもじゃもじゃ組曲を完成させること。その完成回が17話です。なんだかんだ本気で作曲しちゃった江藤先生が最高に可愛く(あと曲も素晴らしく)私の再生回数が一番多いシーンですね。原作にちょこんと描かれた森の住人達の動きが、アニメではよりコミカルに捉えられていて好きです。脚を小刻みに動かす動作なんかはのだめの妄想そのまま表しているようでたまらないです!

 

 ピックアップからは外したものの、巴里編でのきらきら星や二台のためのピアノソナタなど私が好きな演奏はまだまだあります。次は好きな場面をピックアップしてお話したいのですが、記事が長くなっちゃったし、原作のオペラ編をまだ読めていないので漫画を読破してから改めて書き連ねます。笑

 

あーー、ピアノもっと真面目にやっときゃよかったな。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

『卒業して酒と煙草を覚えてしまっても君だけは黒髪のように変わらないでいてね。』いつも覚えられないけれど

※この記事は直接の性的な単語・表現を含みます。苦手な方は避けてください。

 

 

先日、バイト先に制服を返しに行った。

往復1000円の交通費を払ってそれだけというのも何なので、かねてから気になっていた『映画ドラえもん のび太の月面探査記』をついでに見た。見たのだけれど、これが自分的にイマイチだった。とはいえ元々ドラえもんとあまりソリが合わないから仕方なかったかもしれない。(スネ夫は好きだけど人格というかひとつのアイコンとして愛してるよって感じ)脚本が辻村深月なので期待しすぎたというのは大いにあったかな。

 

消化不良だったドラえもんのついでに、えいがのおそ松さんも見た。こちらはファンサービスが強かったなという印象。あんまり松に明るくないから知らなかったけれど、アニメは2期もやって、それが結構こけてたみたいだ。映画のレビューサイトをチェックすると星が4以上ついてて、だからその分を取り返すくらいには成功だったんじゃないだろうか。わたしも何カ所か笑ったところがあった。ハイタッチ一松くんとか。

 

それで、帰りの電車で結構お金使っちゃったなーとか、だから貯金すぐ食いつぶすんだよなーとか、いろいろ反省するのと同時に、今日見た映画はあと2週間もすればまず忘れちゃうだろうなーということも思った。

 

悲しいことに、私は忘れっぽい。特にここ数年は劇的だ。これが結構重症で、最近はなにか作品を見る度に「でもこれもいつか忘れちゃうのよね」と異様な感傷に襲われる。今回もそういう類いのことだった。

 

3000円払って、この虚無感かよ。車両の単調な揺れがむなしさを助長する、そのタイミングでこの作品のことを思い出した。

 

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内容はざっくり説明すると、優等生だけど実はAV女優になりたくて仕方が無い女の子と、唯一そのことを知って体の関係を持っている男の子のお話。

 

初めて読んだときの衝撃は凄まじかった。どうしてか。

ものすごく絵が下手だったからだ。そして本当に魅力的だったから。

 

男の子は、女の子が援交している場面に偶然遭遇したことがきっかけで、彼女に誘われるまま体の関係を持つことになる。互いを都合良く利用していたふたりだが、卒業を迎え彼女が東京の学校に進学することを決めてから物語は加速度的に面白さを増す。

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ここから3ページに渡る男の子のモノローグ。そしてこのラスト。

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最後の1コマはとりわけて好きだ。かつて同じように嬌声を上げたであろうその部屋に、断続的に響く 彼女の声。その息づかい。描ききれない淫らな姿と、その傍らの自分以外の男。下階の家族の生活音や外を走る車のエンジン音までもが聞こえてくるようで、破裂せんばかりに膨らんでいく彼のむなしさがどうしようもなく胸に迫る。

 

全編通しての空気感は、さすがちばてつや賞受賞作。

作者が当時19才だったというのは驚きな反面、わかる感じもした。

 

普段ほとんどこの作品のことを思い出すことはないけれど、数年に一度、どうしようもなく読みたくなって探して読む。タイトルはいつも覚えられない。だから『ちばてつや賞 AV女優』で探す。ヒットしたタイトルを見て、そうそういいよね、と思う。けどやっぱり覚えられない。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。