これは批評ではありません。

布教と悪口とメモ/えんためはなんでもマル

青春オタク哲学に陥落せよ『ぼんとリンちゃん』

冒頭から、あっもう好きじゃんてなった本作。

こういうのを見たくて邦画を見ているのだなあと思います。

2014年『ぼんとリンちゃん』

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なかなかポップでアイタタしいポスターですが映画の内容はひたすらに丁寧です。

物語は幼なじみのぼん(左:佐倉絵麻/腐女子)とリンちゃん(右:高杉真宙/アニオタ)が上京して彼氏にDVを受けている親友の『肉便器ちゃん』を救い出そうと東京に出る、という説明(手書き)から始まります。二人はネットゲームで知り合ったベビちゃんと共になんとか『肉便器ちゃん』と再会しますが、風俗嬢として働く彼女との口論の末結局連れ戻すことが叶わないまま地元に帰ります。映像はカメラを固定しさながら二人の旅路を覗いているような感覚。

あらすじを書き出すと単語が強いのですが、実際はそれほどでもなので安心してください。

 

さてさて、基本的にはオタクの会話劇なんだなー。癖の強い言い回しや独特のスラングが多用された会話、見た目こそまともだがやや空気の読めない二人と見た目はキモオタおじさん全開だが中身はまともそうなベビちゃんとのやりとりの掴みは抜群で、店内で流れるボカロBGMが一層その作品の振る舞いを提示してみせています。ていうかコスプレカフェからとらのあなっていう移動経路からして、ああって感じ。

でも装飾まみれのぼんとリンちゃんの言葉は意外に的を得ていてまともだったり、逆に案外(いやある意味想定通り?)ベビちゃんがヤバかったりでなんだかんだ憎めない関係がだらっと続いていくんですよね。そのへんの空気が心地良いい。

そうです、この作品は終始雰囲気がいい。

雰囲気がいいといっても、それはいわゆる(?)雰囲気映画だという意味合いではなくて.、監督が登場人物に向ける視線がとても温かいのです。例えば「性」という壁をおいて近づききれないぼんとリンちゃん、深夜にぼんに夜這いをかけるも逆に尻に敷かれてしまう情けないベビちゃん、ぼんとの友情に胸を揺らしつつ都会を選ぶと宣言するみゆちゃん(『肉便器ちゃん』)。家電売り場でお菓子を食べ散らかすJK組も妙におかしく愛らしいです。決して強くはなく、曖昧で、正しくもない彼らの正義をひとつひとつ取り上げてほこりを払ってみせる、そういう手つきに魅了されるのかなと思います。

そしてこだわって積み上げてきたぼんという少女像を、親友みゆちゃんと対峙させるクライマックスは役者ふたりの好演もあいまって素晴らしいですね。この作品の青春映画っぷりを堪能できます。

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監督の小林啓一さんは今年の秋に世紀末さん原作の新作『殺さない彼と死なない彼女』を控えているようで、早くも公開がめちゃめちゃ楽しみです~。

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最後に、私が小林啓一監督に惚れ込んだ腰砕けの最高のラストの話をしたいな。地元に帰ったボンとリンちゃん。ボンはリンちゃんとゲームをしながらも、親友を連れ戻せなかったやるせなさを引きずり一人上の空で考えを巡らせ続ける。

 

ぼん「そうだよ、あるある!みんなが満足する答えだってきっとあるはず!絶対あるよ!何かが絶対あるはず!そうすればみゆちゃんだって......。苦悶にだってアナルは必ずある」

リン「出口は必ずあるか!さすが108代の―」

ぼん「違うよ。アナルは出口じゃないよ、入口だよ」

 

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うーーん、秀逸