てめーらが100億倍可愛いわ『宇田川町で待っててよ。』
後期公演や引っ越しで慌ただしかった日々も落ち着き、ようやくU-NEXTのマイリストにぶち込んでた作品に手をつけることが出来ました。
『宇田川町で待っててよ。』
よかったです。性癖に刺さりまくる感じで。
上映時間65分ということもあり、とりあえず2週しました。
あらすじは公式が良かったのでそちらから。
渋谷ハチ公前。百瀬が恋に落ちた女の子は、実は女装したクラスメイトの八代だった。落ちこむ反面、すでに心ときめいた百瀬は、家でも学校でも八代のことを考えてしまう。一方、八代はそんな百瀬の様子に戸惑いながらも、彼に渡された女子校の制服に袖を通す。
原作がBL漫画ですから当然男同士の恋愛を描いた作品なのですが、好きになる相手が女装したクラスメイトというのが本作の見所。単純なボーイズラブでは割り切れないような複雑で奇妙で真っ直ぐな二人の関係が何より魅力です。
女装男子・八代くんが意外に体躯がしっかりした感じなので、男性の似合わない女装が苦手な人や男同士のシーン自体が苦手な人にはあまりおすすめできません。逆に複雑な性指向にロマンを感じる人やそのへんにおおらかな人には良いんじゃないでしょうか。キスまでだし。
(私はむしろ似合わない女装にこそぐっとくる派なのでお宝映像でした)
以下感想、推しどころです。
まず、モノローグがいい。
[骨張った肩で/男だと気づいた
顔を見て/八代(クラスメイト)だと気づいた]
冒頭、渋谷の街で八代を見かけた瞬間の台詞。この間、空気感、流石(BL)です。(BL上がりの作家さんは絵と空気作りがとにかく上手いんですよ。)でもペットボトル落とす演出はちょっとわざとらしい気もしました。
んでざっくり言えば、八代は陽キャで百瀬は陰キャ。普段は決して交わることのない彼の、あの日のとても「言えない」姿に惹き付けられてしまった百瀬は、ど直球に彼にその想いをぶつけていきます。女子校の制服を贈ったり、脅したり、強引に唇を奪ったり、デートに誘い出したり。
このへんの百瀬がめちゃくちゃ怖いんですよ。笑
実際八代はおびえてて。教室でもずっとこっち見てるし、絡んでくるし。
でもだからこそ、表面には見えにくい彼らの気持ちの隅々にまで想像が行き渡るようで大変豊かな気持ちになります。
真っ直ぐな百瀬。クラスメイトの女装姿に図らずも「可愛い」と思ってしまって、ゲイなのか、それとも女装した八代が好きなのかなんてことも考えきれないまま、目の前の「可愛い」八代に少しでも近づきたくて、必死な百瀬。爆音で耳を閉ざし、世界から距離を置いてきた日々に、初めて自分から飛び出して彼を捕まえようとしている。百瀬。
「お前の100億倍可愛いわっ」は大好きなセリフです。
怖がりな矢代。俺は男で、彼女だっていて、友達にも人気があって、だから女装とか暇つぶしで、別に似合ってるとか思ってないし、キモいとかごついとか全部わかってるから、とか余裕ぶってみせる矢代。百瀬の好意を拒否し続ける言葉は、極めて常識的で、同時に女装に惹かれている自分を牽制するため矢代が自分自身に掛け続けてきた言葉でもある。矢代が似合わないワンピースを着て身体を震わせる。円周率。耐え忍ぶ全身から本音が漏れだしている、それがたまらなくいいんです。
矢代は百瀬の濁りのない言葉に幾度となくぐらつき、その度に現実の言葉で自分を正しい世界に引きとどめようとします。初めて部屋に招き入れたときもそうです。揺れ動く矢代の気持ちは百瀬には届きません。翻弄されるまま百瀬は焦り、必死になってやりすぎてしまい、ついに矢代を泣かせます。現実の上下関係を守ろうと懸命に戦ってきた矢代の牙城が崩れ去り感情がむき出しになるこの場面、好きです。そもそも男の人が弱ってるのが好きです。
そしてラストへと駆け抜けていく一連の。
矢代、かわいいよ、矢代。
私だっていつまでも言い続けるよ、矢代。
ここはもう見てほしいとしか言えません......
純粋な演技の巧拙なら、正直主演のお二方(黒羽麻璃央/横田龍儀)より八代の友達や百瀬の姉の方の方が上手かった印象でしたが、二人は真っ直ぐに役と向き合ってきたことが伝わってくる瑞々しい好演だったと思います。特に八代が、百瀬の気持ちを受け入れて以降の姿は、まさに恋する乙女そのものでした。この辺から格段に可愛くなる点も含めて素晴らしかったですね。
原作の漫画もかなり好みなテイストだったのでまたじっくり。
最後に、映画ではカットされてしまった、百瀬が矢代を紹介するモノローグで今回は終わります。
[矢代は/クラスでいちばん/派手なグループにいて
その中でも/特別目立つ/わけでなく
そこそこに/勉強ができて
いつも/ひなたを/歩いている
意識してみると/矢代は/地味だけど
とてもていねいな顔立ちをしている]
いいよね。
※これは批評ではありません。
※これは批評ではありません。