これは批評ではありません。

布教と悪口とメモ/えんためはなんでもマル

『卒業して酒と煙草を覚えてしまっても君だけは黒髪のように変わらないでいてね。』いつも覚えられないけれど

※この記事は直接の性的な単語・表現を含みます。苦手な方は避けてください。

 

 

先日、バイト先に制服を返しに行った。

往復1000円の交通費を払ってそれだけというのも何なので、かねてから気になっていた『映画ドラえもん のび太の月面探査記』をついでに見た。見たのだけれど、これが自分的にイマイチだった。とはいえ元々ドラえもんとあまりソリが合わないから仕方なかったかもしれない。(スネ夫は好きだけど人格というかひとつのアイコンとして愛してるよって感じ)脚本が辻村深月なので期待しすぎたというのは大いにあったかな。

 

消化不良だったドラえもんのついでに、えいがのおそ松さんも見た。こちらはファンサービスが強かったなという印象。あんまり松に明るくないから知らなかったけれど、アニメは2期もやって、それが結構こけてたみたいだ。映画のレビューサイトをチェックすると星が4以上ついてて、だからその分を取り返すくらいには成功だったんじゃないだろうか。わたしも何カ所か笑ったところがあった。ハイタッチ一松くんとか。

 

それで、帰りの電車で結構お金使っちゃったなーとか、だから貯金すぐ食いつぶすんだよなーとか、いろいろ反省するのと同時に、今日見た映画はあと2週間もすればまず忘れちゃうだろうなーということも思った。

 

悲しいことに、私は忘れっぽい。特にここ数年は劇的だ。これが結構重症で、最近はなにか作品を見る度に「でもこれもいつか忘れちゃうのよね」と異様な感傷に襲われる。今回もそういう類いのことだった。

 

3000円払って、この虚無感かよ。車両の単調な揺れがむなしさを助長する、そのタイミングでこの作品のことを思い出した。

 

www.moae.jp

 

内容はざっくり説明すると、優等生だけど実はAV女優になりたくて仕方が無い女の子と、唯一そのことを知って体の関係を持っている男の子のお話。

 

初めて読んだときの衝撃は凄まじかった。どうしてか。

ものすごく絵が下手だったからだ。そして本当に魅力的だったから。

 

男の子は、女の子が援交している場面に偶然遭遇したことがきっかけで、彼女に誘われるまま体の関係を持つことになる。互いを都合良く利用していたふたりだが、卒業を迎え彼女が東京の学校に進学することを決めてから物語は加速度的に面白さを増す。

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ここから3ページに渡る男の子のモノローグ。そしてこのラスト。

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最後の1コマはとりわけて好きだ。かつて同じように嬌声を上げたであろうその部屋に、断続的に響く 彼女の声。その息づかい。描ききれない淫らな姿と、その傍らの自分以外の男。下階の家族の生活音や外を走る車のエンジン音までもが聞こえてくるようで、破裂せんばかりに膨らんでいく彼のむなしさがどうしようもなく胸に迫る。

 

全編通しての空気感は、さすがちばてつや賞受賞作。

作者が当時19才だったというのは驚きな反面、わかる感じもした。

 

普段ほとんどこの作品のことを思い出すことはないけれど、数年に一度、どうしようもなく読みたくなって探して読む。タイトルはいつも覚えられない。だから『ちばてつや賞 AV女優』で探す。ヒットしたタイトルを見て、そうそういいよね、と思う。けどやっぱり覚えられない。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。

Mr.daydreamer#3『人魚は笑う』

何かを観たら誰かに感想を伝えたくなるけれど、近頃さっぱり誰に話したらいいのかわからないのでこうやって書き留めてみることにしました。すぐ飽きるかもしれません。

 

でいどりさんの公演を見ました。演劇祭、#2に次いで3回目です。

mr000daydreamer.webnode.jp

 

お話は、高名な芸術家である父の陰で自らもまた芸術家としてくすぶる少年が、お家の事情で屋敷に匿われた無垢な少女に心惹かれるも、彼女が父親の「作品」としてその命を終えるという過酷な運命に抗いきれず、少女を失い、その無念の情に苛烈に身を焦がしながら生きていくことを誓う、みたいな感じ。少女は「人魚」を自称するのだけど、それは父親による刷り込みで、彼女を作品として昇華させるための嘘。少年の目の前で、至福の喜びを感じながら水槽に身を投げる少女の最後の舞は切なくも美しかったです。

 

ぐっときたところ。

構図がいいな、と思う場面が多かった。こだわりが感じられた。特に、地下室で父親の秘密を知ってしまう場面でランプ(#2のやつだ!)を持ち出しての立体感のある演出が印象的だった。あと、主演の真結さんがとてもよかった。序盤の父親に捉えられるシーンは、全身の力が抜けるその瞬間の、異様な脱力ぶりが人ならざる佇まいで、以降全編を通じてその異質の牙城は崩れることがなく終わりまで魅了されてしまった。いつも、どこか、空虚。そんな感じ。すごいだいせんぱいだーと思った。

 

エンディングに向かうにつれて引き込まれていったけれど、逆に序盤の集中力は多少散漫でした。それはある種の型が見えてしまったからということでもあるし、一人苦悩する主人公の気持ちに添うことができなかったからということでもあります(私はでいどりさんはひとりで痛そうだと感じるし、そういう意味でとてもらしかった)。後半は少女を介して痛みを分かち合えたのかなと。そうしてメリバというものを叩き込まれたのでした。

 

基本的にわかりやすいものが好きなので、印象を叩き連ねていくような普段のでいどりさんよりは、物語を成しているこの作品は個人的に見やすかったです。しかしなにより同じ団体の中で、複数の脚本家・演出家を抱えているというのは、多面的で素敵ですね。

 

※これは批評ではありません。

※これは批評ではありません。